子どもは神仏のつかい? 全国のまつりと子どもが深く関わる理由とは

  • 執筆:弓削田綾乃
  • メイン写真:富谷正弘 / 芳賀ライブラリー
  • 編集:井戸沼紀美、原里実(CINRA, Inc.)

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全国には、大人たちが子どもの誕生を祝い、成長を願ったり、子どもたち自身が登場して活躍したりと、子どもを主役にしたまつりが数多くあります。伝統行事やまつりと子どもが深い関わりをもっているのはなぜなのでしょうか? そこには、病などで子どもが健やかに成長することが現代よりも難しかった昔の人々の思いが隠されています。具体的なまつりを紹介しながら、解説していきましょう。

幼い子どもは神仏とともにある? さまざまな儀礼とともに成長する子ども

日本で生まれ育った人の多くが、誕生してまもない頃から、数々の儀礼を積み重ねて成長してきたはずです。生後七日の「お七夜」、生後三十日前後での「お宮参り」、生後百日前後の「お食い初め」、3月ないしは5月の「初節句」などは生まれて1年以内に、その後は「七五三」「十三詣り」と続きます。

地域によって多少の差はありますが、生まれてから数年の間に、これだけのことを経験するのです。いずれも根底にあるのは、子どもの健やかな成長への願いであり、神仏への祈りが込められています。その背景には、子どもは、いまも昔も病の影響を受けやすいということがあるでしょう。

古来、恐れられていた流行り病のひとつに、疱瘡があります。いわゆる天然痘です。その戦いは紀元前からといわれており、1800年代にワクチンがいきわたったものの、WHOの天然痘根絶宣言が出されたのは1980年になってからでした。

江戸時代にも何度も流行した記録が残っており、特に子どもの罹患率と死亡率は大人よりも高いものでした。このような病気の影響もあり、一説によれば、当時6歳を無事に迎えることができた子どもは10人中7人以下だったとのこと。このような実情を鑑みれば、民俗学者・柳田国男の「七つ前は神のうち」という言葉には、子どもの生命のはかなさへの実感が込められていたのではないでしょうか。

特に5~6歳頃までの子どもは、「稚児」と呼ばれることがあります。「乳飲み子」からきているという説が有力で、この年頃までは、赤子同様に、いつ神仏に返すことになるかわからない状況だったことがうかがえます。医療を含めた社会的未熟の時代には、子どもが大人になることが、現代ほど容易ではなかったのです。

このように考えると、子どもとは、節目ごとに儀礼とともに歩んでいく一面があり、とりわけその地区で信仰されている神仏と近い関係性のなかで成長すると考えられます。

宮城県・気仙沼の「羽田のお山がけ」は、数え7歳になった男児が、羽田山頂の奥の院を約1時間かけて目指す伝統行事。江戸時代より、幼年から少年になる節目としておこなわれている

子どものまつりを分類すると

子どもとまつりとの関わり方は、どのような観点でみるかによって、分類が異なります。ここでは、子どもがどのような立場で参加するかという観点でみてみましょう。そうすると、「大人たちが子どもの誕生を祝し成長を祈るもの」と「子どもが演者として参加するもの」とに分類できます。そして後者には、子どもが神仏の「よりまし」(編注:神霊がよりつく肉体)になるもの、通過儀礼的意味合いが強いものなどがあります。しかしながら、これらの分類は必ずしも明確とはいえず、むしろ重なり合うことのほうが多いのが実情です。

誕生を祝し成長を祈るまつり

子どもの誕生や成長を祈るものとして、たとえば各地でおこなわれている「泣き相撲」があります。ここでは、生後1年ほどの子ども同士が、大人に抱かれて土俵にあがり、向かい合います。「先に泣くと勝ち」「泣かないと勝ち」「泣き声が大きい方が勝ち」「勝敗なし」など、行司の判定はさまざまです。

いずれのパターンでも、子どもの健やかな成長を祈願するとともに、氏神さまへの披露を兼ねていることから、子どもが社会的にも観念的にも地域コミュニティーに受け入れられるための儀礼ともとらえられるでしょう。

長崎県平戸市の最教寺で、毎年節分の日におこなわれる「子泣き相撲」。ここでは先に泣いたほうの子どもに軍配があがる (C)富谷正弘 / 芳賀ライブラリー

よりましとして大切な役目を担うまつり

子どもが神仏の「よりまし」となるまつりに、「稚児舞」があります。

たとえば、静岡県周智郡森町の小國神社の「十二段舞楽」では、毎年4月の例祭で稚児舞が披露されます。演者である子どもたちは、稽古として神社の敷地にある建物に寝泊まりして「おこもり」し、口にするもの、身につけるもの、お風呂のお湯などには、神水である湧水を使います。例祭当日は、白塗りの顔に化粧、頭に天冠をつけます。このように身を清め整えて神のよりしろとなった稚児は、地面に足をつけず、肩車されて移動するのです。

舞は、緩やかながらも、反閇(踏みしめる動作によって霊魂を鎮め、地中の息吹を呼び覚ます)や、四方固め(四方向で舞い、結界をはる)などの呪術的な所作で構成されています。また、稚児舞の終わりには、大人の演者によって、人間の世に引き戻されるような場面が登場するのも興味深いです。

富山県「加茂神社の稚児舞」においても、白塗りの顔に化粧、頭に天冠をつけた子どもたちが、地面に足をつけないよう肩車されて移動する

稚児は、社会的表象として、2つの面をもっています。それは、「聖なる存在」と「伝承の担い手」という面です。よりましとなる一方で、伝承の担い手として、ひいては地域共同体の担い手として、大人たちに交じって役目を果たしてきました。稚児舞は、「聖なる子どもが演じる、聖なる舞踊」であるとともに、「地域の人間を育てる社会的な舞踊」であるともいえるでしょう。

小國の十二段舞楽では、稚児よりも大きい子どもたちによる「太刀の舞」も披露されます。太刀を振りながら勇壮に舞う舞は、邪気を祓う舞として、日本各地でみることができます。

「十二段舞楽」の「太刀の舞」の様子 (C) 下郷和郎 / 芳賀ライブラリー

神仏のよりしろとなるために、藁でつくったものの周囲を回るパターンもあります。鳥取県鳥取市気高町酒津で小正月に行われる火祭り「酒津のトンドウ」には、藁や竹などでできた大きな円錐形のトンドウが登場します。これが年神さまのよりしろとなり、その周りを7~12歳の男子が駆け回ることで、子どもに神が乗り移ります。

「酒津のトンドウ」

こうした特定のものをぐるりと取り囲んだり、回ったりすることで、その場にいる人たちを神がかり状態にするまつりは、中国地方にみられる特徴でしょう。その後子どもたちは、海藻を携えて地区を清めるという行為もおこないます。

また、子どもたちが協力して、神仏のよりしろとともに練り歩くパターンもあります。その例が、龍や蛇にみたてた綱を藁で編み、練り歩く行事です。これは、年始、春、秋といった季節の節目、夏の盆などにおこなわれ、東北から関東、近畿、中国、九州以南地方と、広く分布しています。なかでもお盆の時期におこなわれるものは、「盆綱」と呼ばれ、ご先祖さまの霊魂を乗せて地区を巡ります。子どもたちは、地縁でつながる霊魂を迎え入れ、送り出すと同時に、地区を清めて歩くという重要な役割を担うのです。

福岡県筑後市でおこなわれる「久富盆綱曳き」。地区の小学生が全身にススを塗り、腰にはワラミノ、頭には角に見立てた縄を巻いて、地獄の釜番である鬼に扮し、盆綱をひいて町を練り歩く (C)木村敬司 / 芳賀ライブラリー

子どもから大人へ。通過儀礼の様相のまつり

子どもが成長するために必要な儀礼的様相を示すまつりとしては、鹿児島県肝属郡肝付町新富の四十九所神社で10月におこなわれる「高山流鏑馬」があります。中学生が馬上で弓と鏑矢を構え、疾走しながら的をねらうというものです。約1か月の稽古があり、その間、地区の大人たちからさまざまな教えを受けるといいます。一連の神事を経て、大勢の注目を浴びるなか、たった1名の射手として挑む姿は、まさに大人への成長の証といえるのではないでしょうか。

鹿児島県「高山流鏑馬」

ところで、子どものまつりを支えるのは、いうまでもなく地区の大人たちです。子どもは、まつりの期間、精進潔斎や稽古、神事などを通して、普段関わることのない大人たちと深く関わり合います。こうした交流が、子どもにとっても、地域コミュニティーにとっても、かけがえのない絆を生む場になっていると考えられます。

子どもは、庇護される存在でありながら、神仏に近い存在としてコミュニティーへの貢献を期待される存在でもあります。子ども自身にとっても、自分が生まれ育つ文化・社会・人への愛着が芽生える機会になっているのでしょう。

地域の伝統行事から、未来志向のコミュニティーづくりを。時代の変化とともに生まれる新たな関わり

子どもが主体的に関わるまつりにおいて、後継者探しに苦労する話をよく耳にします。現在日本では深刻な少子化が進んでいますし、何よりも子どもをとりまく社会状況が変わっています。

たとえば、一定期間自宅から離れなければならない精進潔斎、普段あまり口にしないような食事、また、学校との兼ね合い、特に定期試験や受験の時期のまつりへの参加の難しさなどは、ともすれば、子ども・家庭をまつりから遠ざけてしまう要因となる恐れがあります。そうした社会の変化に柔軟に対応しながら、脈々と伝承をつなげている地区の方々には、頭が下がる思いです。

その一方で、新しい関わり方も生まれています。それは、教育現場との連携です。文部科学省の学習指導要領によれば、地域の文化財や伝統行事などを題材として、思考力や社会性などを育成することが推奨されています。

たとえば、地域の人々と親密になり、自然や文化財に関心をもち、伝統行事などに参加したりすることで、地域への愛着を高め、豊かな生活につなげる。そして、郷土を創る次世代の人材育成や持続可能な地域社会の形成につなげるというのです。

こうした子どもの学びの現場との前向きな関係づくりも、これからの多様な世の中で、ますます重視されるでしょう。それはまた、未来志向の地域コミュニティーづくりとなるのではないでしょうか。

プロフィール

弓削田綾乃(ゆげた あやの)

和洋女子大学家政福祉学科准教授

和洋女子大学家政福祉学科准教授。専門分野は舞踊学、児童文化学、スポーツ人類学。共著書に『映像で学ぶ舞踊学―多様な民族と文化・社会・教育から考える』(大修館書店)、『からだから始まる保育のアート―創造と表現がつながってあふれる―』(市村出版)、『近代日本の身体表象』(森話社)など。

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